凍える冬に引越祝いの品を見に行った。 「今はちょうど入荷のない時期なんだよ。ほら、寒いだろう?枯れやすいから、今の時期なら木よりも花がいいよ」 お店の人は丁寧に教えてくれたけど、木がよかった。なので花屋のおばさんにお礼を言って店を出た。 こんな寒い時期に引越なんて大変だろうと、当日、少し様子を見に行ってみたら終わっていた。引越屋に全部運んでもらったらしい。 カーテンが無いから早く買いに行くと言っていた。分厚いしっかりしたのを買おうと話していた。…立派な雨戸がついているのに。 「なくてもいいんじゃねぇ?雨戸閉めて寝れば」 速攻で却下をくらった。朝になっても陽が入らないから暗くて起きないんだそうだ。でも窓ガラスだけだと寒いから、分厚いカーテンがすぐにも必要らしい。雨戸、活用しろよ。 どちらにしても確かに必要だと思った。 靴下だけでフローリングの上に乗った足先は、冷たさで痛くなっていた。 花屋の帰り、通りがかりのスーパーで新品のランドセルが並んでいた。本屋の棚で『小学一年生準備号』という雑誌も見かけた。いつもの年中行事の一つだ。 そのまま家へ帰った。 額に温度を感じた と思ったら誰かの手だった。 気持ちよい温かさと思っていたら、とんだ勘違いだ。しかもその手の湿度がうるさい。ソファーにダレてた工藤は、勢いよく手を払いのけて起きあがった。 「あっちぃなッ!! テメーの体温 沸点超えてんじゃねーのかッ?!」 「おれの手ェはなあ、ぬっく〜いまごころを反映しとんのや。 しんどぉて横になっとんのかと思たらエライ冷たいデコやんけ。」 また、額に熱い手が乗る。 「…テメーのエネルギーと一緒にすんな。」 意外に心地良い温度だった。熱さに慣れたかもしれない。その心地よさに負けて、放っておくことにする。 「熱いんもあかんけど、冷た過ぎるんもあかんやろ」 脳は熱に弱い。 額だけの温度で実際に脳が冷えてるかどうかはしらないが、確かにぬくもりは心地良かった。 服部は、特に言わずそのまま置いてくれた。 先程 外に出たとき、予想を上回る寒さだった。 せっせと歩いて行ったのに、目的の物が見つからなかったから余計に寒かった。暗い曇り気味の空は、体感気温をさらに下げた。着ていった上着は厚みが足らなかった。 今は服部の手であったかい。 もうじき入荷出来るようなことをおばさんは言った。なんだっけ。木が枯れにくい時期になるから。寒さが和らぐからか。もう2月も末だ。 木を贈りたかったんだ。3月になったら引越祝いには遅いかな。3月と言えば春か。 3月になったら…ランドセルももう時期か。 入学式には桜も咲くのか。 「…やっぱ、あつい」 服部の手を退かすと服部は少し笑って、でも何も言わずその場を去った。 手が去ると同時に熱さも一瞬にして去ったが、額にはまだ温かみが残っていた。 ああ、もうじき暖かくなるのか。 春か。 春だ。 木が新芽をふきかえし(こんな言い回しはちょっと)、花屋の店も品数が増え、ランドセルも新品が道端を… そっか。 もうすぐ、この温度のようにあったかくなるのか。 「日本人はやっぱコレやろ」 服部がお茶を出してくれた。大きな手作り風湯飲みになみなみと入ったお茶には、熱い湯気がめいっぱい上る。 口の中を火傷しないように飲まないと。 指先と胃が、最初に暖かくなる。 モドル |